崖の上のポニョ, 鞆の浦, ジブリ, 宮崎駿

　

　　鞆の浦（とものうら）は、広島県福山市の沼隈半島（ぬまくまはんとう）にある港町だ。江戸時代から続く街並みが残っている日本でも貴重なところだ。

　鞆の浦が一躍脚光を浴びたのは、「崖の上のポニョ」の舞台になったのではないかと噂されているからだ。

　宮崎駿監督は、「崖の上のポニョ」の舞台を鞆の浦だとは明言していない。アニメ製作において、実在する街を舞台にすることは、作品の世界観と違うイメージを与えかねないため、仮にそうだとしても一般的に公表しないようにしているからだ。

　しかし、宮崎駿監督自身がNHKの番組プロフェッショナルの中で、鞆の浦との関わりを紹介しているので、 ほぼ間違いないといってもいいだろう。

　宮崎監督は平成１６年１１月に、スタジオジブリの社員旅行で、知人に紹介された鞆の浦を初めて訪問した。その際、江戸時代の雰囲気が残る町並みを気に入り、翌１７年２月から約２カ月間にわたって一軒家を借りて滞在し、町を歩きながら「崖の上のポニョ」の構想を練ったという。

　また、「崖の上のポニョ」の中では「ＴＯＭＯ」という看板のスーパーマーケットが登場したり、船に掲げた幟（のぼり）に地元の神社の名前が記されるなど、鞆の浦をほうふつとさせる場面が多く登場している。
　鞆の浦を知っている人が映画を観ると、もっと沢山共通点を見つけることができるかもしれない。

　さて、この鞆の浦、「崖の上のポニョ」公開中は、さぞや賑わったことだろうと思ったが、鞆の浦への観光客は少なく、街の中の人はまばらだった。悲しいかな、鞆の浦は観光客誘致の一大チャンスなのに、「崖の上のポニョ」ブームが去るのを、じっと待っていたという状況だったのだ。

　実は、鞆の浦では、このとき、港の埋め立て工事、 高速道路整備、港を跨ぐ道路橋を計画していた。
　そして、十年ほど前から、港を跨（また）ぐ道路橋の建設を検討している福山市に対して、保存を望む人たちからの反対運動が起きているのだった。
　自治体や商業観光団体は、反対運動が大きくならないように、じっと身を細めていたという状況だった。

　福山市民、特に鞆の浦の住民で架橋に反対している人は少数派のようである。福山市役所や市議会は、架橋推進派で、福山市のためになると信じて計画を進めている。

　一方で、街並みの保存を望む人たちも沢山いて、鞆の浦を世界遺産にするための１０万人の署名が集められていて、鞆の浦の文化価値が指摘されてもいる。実際に、鞆の浦は江戸時代の景観が今なお残っていて、世界遺産に登録される可能性は、かなり高いようだ。

　世界遺産の調査・評価を担当するユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議（イコモス）」も同じ時期、埋め立て・架橋計画の中止を求める勧告を05年に続いて決議した。11月にはイコモス本部（パリ）のグスタボ・アローズ委員長が代替案の検討を求める要望書を国交相や広島知事らに送った。

　ひょっとしたら、宮崎駿監督は、この内情を知っていて、「崖の上のポニョ」を制作したのかもしれない。

　今なお、港整備と架橋の計画は続いている。江戸時代から続く日本の美しい街並みが見られるのは、今だけかもしれない。

　

　ポニョはさかなの子・・・。

　

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一口メモ
　2009年10月1日、広島地裁は、鞆の浦の景観は国民の財産だとして埋め立てを認めない判決を出しました。